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ある日、いつものように散歩をしながら写真を撮っていた。
庭先の薔薇を撮っていた時、頭の上から声がした。
「写真、撮ってるんですか」
顔を上げると窓からその家の奥さんが私を見下ろしていた。
「はい、すみません」
「手入れをしていないからきれいじゃないでしょう」
「いいえ、きれいです。撮らせてもらいました」
それから少し話していると、
奥さんは片腕が思うように動かないのだと言った。
神経か何かですかと問うと
「本当ならもう生きてないんですけどね」
「そんな、お元気そうですよ」
としか言えなかった。
「よかったら、どうぞ持ってって」
「いいんですか?」
いつもなら遠慮して断る私だったが、
このときは素直に「それじゃ」と一輪、手折った。
礼を述べて急いで帰宅して、生ける物を探した。
小さいワイングラスがあったので、それに挿した。
結婚したばかりの友人にお祝いの気持ちを込めて。
パチパチと角度を変えて何枚も撮った。
その頃のブログに早速アップロードして、
おめでとうの言葉を添えた。
奥さんの半身麻痺は脳梗塞かと思われた。
本当なら生きてない、
その言葉が悲しかった。
なぜ私は生きているのだろう。
目を伏せると思い出されるのは過去で、
フィルムを巻き戻すように懐かしい人々の姿があった。
どうか、私と出逢った人みんな、幸せであるように。
愛を育み、慈しみ合い、悲しみは少しでも軽く。
祈りたい気持ちになった。
どうか、幸せでいて。
私を忘れても。
今の想い。
もし届くなら、空いっぱいに広がって
澄んだ青に染まって。
「空はいつでもあるんだから」
そんな言葉を思い出した。
離れても、同じ空の下に私達は生きている。
それでいいから。
想いを込めて、 「LONELY LONGIN' PENGUIN」より。
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2007.10.10 ▲
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